ときどき、広めの本屋さんに行きたくなる日があります。
何かを買いたいわけでも、特別に探している本があるわけでもなくて、
ただ「ぐるっと一周してみようかな」と思うのです。
そのときのルールはひとつ。
自分の興味がある・ないにかかわらず、できるだけくまなく見て回ること。
立ち止まっても、通り過ぎてもかまわない。
でも、すべての棚を一通りめぐることだけを意識して…。
そんなひとめぐりの中で、思いがけず心がゆるんだり、何かに気づかされたりする時間が生まれるのです。
棚をめぐるたびに、心の引き出しが開いていく
「これ、前から気になってたんだった」
「このタイトル、最近SNSで見かけたかも」
「この作家さん、昔よく読んでたなぁ」
歩いているうちに、記憶の引き出しがひとつ、またひとつと開いていきます。
忘れていた関心がよみがえったり、何気なく目にした言葉が、今の自分にしっくりきたり。
それは、まるで自分の“今”と“過去”が重なり合うような瞬間。
本屋さんでただ歩いているだけなのに、
不思議と、自分自身の内側と対話しているような気持ちになります。
子ども向けの棚や知らない棚にも、豊かな発見
私はいつも、子ども向けの絵本コーナーにも立ち寄ります。
色とりどりの表紙をながめているだけで、ほっこりした気持ちになったり。
小学生向けのドリルがずらっと並んでいる棚を前にして、
「これ、いまやっても解けるのかな…?」
なんて、ちょっとドキドキすることも。
そんな小さな“刺激”でも、ふだん眠っている感覚が呼び覚まされる気がするのです。
先日、本屋さんで見慣れない表示を見かけました。
そこには「なろう系」と書かれていて、
思わず「なにそれ?」と立ち止まりました。
調べてみると、「小説家になろう」というネット小説投稿サイト発の小説ジャンルのこと。
異世界ものや転生ものが多く、若い世代を中心に人気があるのだそうです。
知らなかった言葉に出会うことは、自分の世界が広がる瞬間でもあります。
書店という“今”の空気を感じる場所
ネットやSNSにはない、本屋さんの“空気感”が私は好きです。
そこに並べられた本たちは、誰かの手で選ばれ、配置されたもの。
だからこそ、今どんな本が読まれているのか、どんなテーマが注目されているのか、
“今”の空気を肌で感じることができます。
流行や社会の雰囲気を、静かな場所でゆるやかに受け取る。
その時間が、心を豊かにしてくれることもあります。
目的がなくても、自分と向き合える“巡回の時間”
本屋さんをくまなく一周する――それは、心の中を歩くような時間でもあります。
ゴールが決まっているわけではないし、特別な成果があるわけでもない。
でも、その“なんでもない巡回”の中で、
少しずつ自分の状態や、今の気持ちが見えてくる。
「今日はちょっと疲れてるな」
「最近こういうことに興味があるんだな」
こうした“なんでもない時間”が、気づけば今の自分と向き合うきっかけになることもあります。
おわりに
本を買わなくても、
手に取らなくても、
ただ、ぐるっと一周してみるだけ。
あえて目的を持たずに歩く時間が心を開放し、
あなたの中の“まだ知らない何か”と出会う機会になります。
今日、もし近くに本屋さんがあったら、
ちょっと立ち寄ってみませんか?
いつもの日常の中に、ささやかな発見の扉が開いているかもしれません。